伊勢PART3・続 〜竹内浩三の詩〜

ひとつ前のブログで書いた竹内浩三の詩の中で、私が特別好きな詩を三つ。
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五月のように


なんのために

ともかく 生きている

ともかく

どう生きるべきか

それは どえらい問題だ

それを一生考え 考えぬいてもはじまらん

考えれば 考えるほど理屈が多くなりこまる

こまる前に 次のことばを知ると得だ

歓喜して生きよ ※ヴィヴェ・ジョアイユウ(※楽しんで生きよ)

理屈を云う前に ヴィヴェ・ジョアイユウ

信ずることは めでたい

真を知りたければ信ぜよ

そこに真はいつでもある

弱い人よ

ボクも人一倍弱い

信を忘れ

そしてかなしくなる

信を忘れると

自分が空中にうき上がって

きわめてかなしい

信じよう

わけなしに信じよう

わるいことをすると

自分が一番かなしくなる

だから

誰でもいいことをしたがっている

でも 弱いので

ああ 弱いので

ついつい わるいことをしてしまう

すると たまらない

まったくたまらない

自分がかわいそうになって

えんえんと泣いてみるが

それもうそのような気がして

あゝ 神さん

ひとを信じよう

ひとを愛しよう

そしていいことをうんとしよう

青空のように

五月のように

みんなが

みんなで

愉快に生きよう



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金がきたら


金がきたら
ゲタを買おう
そう人のゲタばかり かりてはいられまい

金がきたら
花ビンを買おう
部屋のソウジもして 気持ちよくしよう

金がきたら
ヤカンを買おう
いくらお茶があっても 水茶はこまる

金がきたら
パスを買おう
すこし高いが 買わぬわけにもいくまい

金がきたら
レコード入れを買おう
いつ踏んで わってしまうかわからない

金がきたら
金がきたら
ボクは借金をはらわねばならない
すると 又 なにもかもなくなる
そしたら又借金をしよう
そして 本や 映画や うどんや スシや バットに使おう
金は天下のまわりもんじゃ
本がふえたから もう一つ本箱を買おうか



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骨の歌う


竹内浩三  作
中井利亮 補作


戦死やあわれ

兵隊の死ぬるや あわれ

遠い他国で ひょんと死ぬるや
だまって だれもいないところで
ひょんと死ぬるや

ふるさとの風や
こいびとの眼や

ひょんと消ゆるや

国のため
大君のため
死んでしまうや
その心や


白い箱にて 故国をながめる

音もなく なんにもなく
帰っては きましたけれど

故国の人のよそよそしさや
自分の事務や女のみだしなみが大切で

骨は骨 骨を愛する人もなし
骨は骨として 勲章をもらい
高く崇められ ほまれは高し

なれど 骨はききたかった
絶大な愛情のひびきをききたかった

がらがらどんどんと事務と常識が流れ
故国は発展にいそがしかった
女は 化粧にいそがしかった


ああ 戦死やあわれ

兵隊の死ぬるや あわれ

こらえきれないさびしさや
国のため
大君のため
死んでしまうや
その心や

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全編「愚の旗」 成星出版 より