絵本『おばあさんのしんぶん』（講談社）絵・文／松本春野 原作／岩國哲人 が本日発売です。
Amazonでは２２日発売です。
日本新聞協会が主催する、新聞配達に関するエッセーコンテスト平成２６年度の最優秀作品を受賞した岩國哲人さんのエッセーの絵本化です。
戦後の貧しい母子家庭の長男てつおの物語。彼がまっすぐ心優しい少年に育っていく背景には、地域の人々の温かい眼差しと関わりがありました。
その眼差しを絵本の中にふんだんに描き込みました。
こちらが岩國哲人さんのオリジナルのエッセー
↓
一九四二年に父が亡くなり、大阪が大空襲を受けるという情報が飛び交う中で、母は私と妹を先に故郷の島根県出雲市の祖父母の元へ疎開させました。その後、母と二歳の弟はなんとか無事でしたが、家は空襲で全焼しました。
小学五年生の時から、朝は牛乳配達に加えて新聞配達もさせてもらいました。日本海の風が吹きつける海浜の村で、毎朝四十軒の家への配達はつらい仕事でしたが、戦争の後の日本では、みんながつらい思いをしました。
学校が終われば母と畑仕事。そして私の家では新聞を購読する余裕などありませんでしたから、自分が朝配達した家へ行って、縁側でおじいさんが読み終わった新聞を読ませていただきました。おじいさんが亡くなっても、その家への配達は続き、おばあさんがいつも優しくお茶まで出して、「てっちゃん、べんきょうして、えらい子になれよ」と、まだ読んでいない新聞を私に読ませてくれました。
そのおばあさんが、三年後に亡くなられ、中学三年の私も葬儀に伺いました。隣の席のおじさんが、「てつんど、おまえは知っとったか？おばあさんはお前が毎日来るのがうれしくて、読めないのに新聞をとっておられたんだよ」と。
もうお礼を言うこともできないおばあさんの新聞・・・。涙が止まりませんでした。
